マーク詩集「跳ぶシーラカンス」

跳ぶシーラカンス 上花藻群三

デボン紀からはいだしてきた
シーランンス
1938年 ケープタウン
みつけたのは
ダイヤモンドを買付けにきた
ドイツ商人の八つになる娘だったな
暗黒から
曲げた背骨をピンとのばして
波の高みにあごをつきだした
シーラカンス
すずーっと
海水浴場にのり入れ
泡だつ
波濤がくずれたとき
少女の素足に触れたのだな
剛毛におおわれたヒレが
光になめられてからみあう
少女の産毛にざっくり
踝にVの字型をつけてから
なつ
少女は海を怯え
喘息に似た表情で
肩を落として小さな瞳をあげ
故郷の
黒い森に
ひっそりと閉じこもったのだな
だが
よる 黒い森に海が流れ
少女の胸郭はしめあげられ
ひよう
ひよう
空気が
喉を貫いていった

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花藻群三写真
■花藻群三 gunzou hanamo

澁澤龍彦を研究する書誌学者
著書に
詩集「自由射手」、「龍神淵の少年」
「跳ぶシーラカンス」ほか
本名:杉田總(すぎたさとし)
昭和四十五年 没