マーク詩集「自由射手」

自由射手花藻群三

きみの
額から射ちぬいていくには
更に混沌とした
弓弦のたわみが必要だ。
ひきしぼられたアークの閉じこめている
呼吸のすみやかな腐敗から
浮かびあがるきみの未来が きみの断ちきられた視線をつくろうとき
きみは 自由射手 大地に逆さまにめりこんで
ぎし ぎし 発芽してくるあばらぼねをもてあましている

きみの水たまりをけたてて
自由射手
射おとした母系家族のふくらんだ腹を
引き裂いていくと
日本原人の獰猛な微笑にとりかこまれた
移動するゴーストタウンが見えてくる
いま
きみはのみこまれて
闇雲に矢を放つ
だが
きみの村は最後の排泄を終えて
立ち退いていくから
きみはきみの村を射抜けない

自由射手は飢える
飢えながら飢えを喰つてふとる
自由射手は虐殺される
虐殺されながらすばやく死体に未来をかくす

水稲のはびこる
きみの脳壁を焼いて
自由射手
ふりむきざま
きみの背後のきみの額を
射て

花藻群三写真
■花藻群三 gunzou hanamo

澁澤龍彦を研究する書誌学者
著書に
詩集「自由射手」、「龍神淵の少年」
「跳ぶシーラカンス」ほか
本名:杉田總(すぎたさとし)
昭和四十五年 没