
「発作のあとは安静にしてなきゃいけなくてさ、ベッドの上から窓の外をずっと見ていたの。でも窓から見える景色なんてさ、代わり映えしないんだよね。季節によっては変わるけど、田舎の田園風景だからさ、古い建物が潰れて新しい建物が建ったりもしないし。見渡す限りのファームがさ、地平線を作るくらい広がってるの」
食べかけのコーンからソフトクリームが今にも溶け落ちそうになっている。
でも、花音は遠い目をしたまま話続ける。
「だからそんなときはさ、想像するの。あの地平線の向こうには何があるとか、空を流れる雲を見ては、あれはペガサスだとか、あれは雲の城だとか。雪が降る日には、分厚い灰色の雲の上に大きなカキ氷器を回す雷様がいるんだとか。ドリフの雷様みたいなさ。で、ノートにずーっとそんなのを書いてた。お話書いて、絵も描いて。これが本当ならいいなあって、ファームで無理やりドリーム見てたわけ。あ、やばーい、溶けてきてる」
花音は溶けて流れ落ちてきたソフトクリームの筋に気付き、危うく手に付きそうなところを舌で受けとめ、そのまま上を向いて一気に口の中に入れ、満足そうに笑った。
「今は大丈夫なの?」
「もちろん、見ての通り。完治したのをいいことにヘビースモーカーだし、昨日みたいな激しい運動にも全然耐えられるよ」
花音はそう言って、クリームのついてしまった指先をくわえた。
セックスのことを激しい運動と言う女は初めてだったから、男の俺のほうが動揺してしまった。
慌てて話を元に戻す。
「で、想像を映像にしたくてうちの学校に?」
「まあ、そんなとこかな。休みがちだったから勉強できないし。ベッドの上で養われたのはお金にならない想像力ばかり。それをなんとかお金にする方法はないかなって考えて」
「なんか夢のある話から一気に現実的な話になったなあ」
「お金は大事だよ」
「そりゃそうだけど」
「親はさ、脚本家なんて仕事よくわかってないから猛反対で。地元に就職して地元で結婚してくれればいいってもう大喧嘩。家出同然で飛び出してきたんだ」
「え、じゃあ授業料とか自分で払ってんの?」
「うん。二年間ぐらいはバイトだけしてお金ためて、ローンを組んで入学」
「まじで? うちバカ高いじゃん」
「ね、馬鹿でも入れるとこって、授業料高いんだよね」
「あー……。克なんてさ、試験のとき名前しか書けなかったのに合格したらしいし」
何の自慢にもならない克の武勇伝に、花音はただでさえ大きい目をさらに大きく広げ
た。
「まじで?」