
「違うよ。まあ、確かに上手じゃないけど、山崎君の絵には味がある」
「あんまり褒められてる気がしない」
「超褒めてるよ」
「じゃあなんでさっき笑ってたのさ」
俺が膨れながらきくと、花音は黙ってにやにやしながら人差し指で鼻の頭をさすった。
俺はまた自分が無意識のうちに例のクセをしてしまっていたらしい。
「違うんだって、これは」
何が違うかわからないまま俺はとりあえず否定してみた。
花音は面白がって鼻の頭をさするのをやめない。
「やめろって、ちょっと、赤くなっても知らないよ」

俺はそう言って花音の手首を掴んだ。
花音は動きを止めた。
花音との距離が近い。
しかも俺の手と花音の手首は触れている。
俺の目の前に王子さまの足が現れた。
「ねえ、好きなの描いていいよ」
花音は挑発するように俺をじっと見つめた。
俺は花音の二の腕に触れ、Tシャツの袖をまくった。
俺のTシャツのはずなのに、まくることに抵抗感があって緊張し、さらに興奮していた。
俺は親指で王子さまの顔を撫で、ペンのキャップを口ではずし、王子さまの顔にチュー顔を描き込み、口にくわえていたキャップを床に吹いて落とした。
俺がゆっくりと顔を近づけても花音は抵抗しない。
それどころか下唇を軽く舐め潤おす。
もう少しで唇が触れる。
ぽってりとした肉厚な唇に。
あと数ミリ、というところで、花音は突然
「ごたごたごたごた……」
と呟きだした。
条件反射のように、俺はピタっと動きを止める。
鬼のような顔の真奈が浮かび上がってきて、俺はがっくりとうなだれる。
そんな俺を見て、花音はぷぷぷと吹き出して笑った。
「っあーっ」
俺は床にひっくり返り、起き上がれない亀のようにしばらく手足をじたばたとさせたあと、諦めたように起き上がった。
花音はからかうように笑っている。
こうなったら笑うしかない。
俺は半分自棄になりながら花音と一緒に大笑いした。