
そのままラブラブモードになっている場合ではなく、俺と花音は真剣に脚本を直し始めた。
花音のアイデアもあり、屋上シーンは撮影許可の下りる桟橋で撮ることにした。
なんとかなりそうだ、とほっとしたところで、
「くしゅんっ」
と何とも可愛らしいくしゃみが聞こえた。
花音の名前のごとく、花が揺れる音のような小さなくしゃみだった。
俺が堪えきれずに顔を緩めてにたっとしてしまうと、花音が、
「何?」
と恥ずかしそうにつっかかってきた。
「いや」
俺は首を振り、エアコンを切って窓を開けた。
「ごめんごめん。鈴原が来る前につけていたから忘れていて」

「あー、別に大丈夫だよ。ありがと。誰かが噂しているんじゃない?」
花音は照れ隠しか、花音らしからぬベタなことを言ってきた。
確かに花音はいない間も撮影現場で噂の的だった。
役者は「この脚本面白い」と仕切りに褒め、女性スタッフは「脚本はいいんだけどね」と影で誹謗中傷していた。
きっと花音はくしゃみが止まらなかったに違いない。
脚本が定まってきたので、俺はカット割りを描いた画コンテを描き始めた。
頭の中のイメージは完璧なのに、俺のつたない絵で画コンテにするとどうも三段階ほど面白くないシーンに見えてしまうのが残念でしょうがなかった。
俺は演出を考えていると周りが見えなくなってしまう。
俺はしばらく無言だった。
視線を感じて顔を上げると、真剣に画コンテを描く俺を見て花音が何か言いたげに含み笑いしていた。
「何?」
「別に」
さっきのくしゃみの仕返しなのか、花音は小バカにしたような目で俺を見る。
「なんだよ? 俺の絵が下手だから馬鹿にしてんだろ。しょうがねえじゃん、描けないものは描けないんだし」
俺が鉛筆を転がすと、花音は首を横に振った。