
脚本の直しが必要になったと言うと、花音は「遅い時間なら行ける」とわざわざタクシーで俺の家までやってきてくれた。
しかもどこかの有名店のプリンをお土産に持って、
「疲れたときには甘いものだよね」
と、とびきりの笑顔もセットで。
今日の花音は雰囲気が違っていた。
長い髪の毛先は緩めに巻かれていて、いつもはナチュラルメイクなのに、今日はアイラインまでしっかりと描かれていた。
ヒールの華奢なパンプスを玄関で脱ぎ捨て、ユニットバスに向かい、
「あー、蒸れる」
と言いながらでストッキングを脱いでそのままゴミ箱に投げ捨てた。
リボンのついたカットソーや、膝丈のスカートは上品なお姉さまっぽく、いつもより年上に見えた。
「ねえ、何か着替え借りていい? こういう堅苦しい服で書くの苦手でさ」
突然の花音の申し出に俺は素直に動揺した。
大きめのTシャツはスポンと花音を包み、それだけでワンピースに見える丈だったけど、念のためハーフパンツも渡した。
花音はTシャツの首元をつかんでクンクンと匂いを嗅ぎ、
「男の子の匂いがするね」
とクスっと笑った。
たまらん。
俺がぽーっとその姿に見とれている間に花音は茶色いOL風のバックから黄色いノートを取り出し、テーブルの上に開いてちゃっちゃと用意を始めていた。
「その前に」
花音はプリンを取り出してペコちゃんのように舌を出した。
「山崎君の分もあるから食べなよ。撮影大変そうだったし」
花音にそう言われて、俺はやっと我に返り、今日花音を放置プレイだったことを思い出した。
「鈴原、ごめんな、今日。せっかく来てくれたのに、俺、夕陽間に合うか必死でさ」
花音はプリンをすくいながらにっこりと微笑んだ。
「全然いいよ。あの夕陽は私もこだわりたいところだったし。間に合ってよかった。お疲れ様。ほら、あ~ん」
小さなスプーンの上でプルプルと揺れるプリンを花音は俺に食べさせてくれた。
今日一日の疲れが一気に吹っ飛んだ。