
それからしばらく学校で花音の姿を見なかった。
みんなは男とのトラブルで監禁されているんだとか、性病になって自宅謹慎しているんだとか、誰かの愛人になってどっぷり囲われているんだとか、それはもうびっくりするくらい好き放題言っていた。
だけど俺の心はちっとも乱されなかった。
宝箱を開けるような希望に満ち溢れた表情で作品のアイデアを出す花音を知っている。
今頃きっと、自宅のパソコンの前で脚本と一騎打ちをしているんだろう。
アドレスは交換したからメールをすることも電話をすることもできたけど、創作の邪魔になったらいけないと思い自粛した。
「拓郎君、あのさ……」
真奈がはにかみながらクリアファイルにはさんだ企画書を差し出してきた。
「鈴原さん、いい加減そうだから、やるって言っても脚本間に合うかわからないと思うし、一応私もいくつか考えてみたんだけど」
この前のファミレスの勇ましさは一切なく、しおらしい物腰。
隣で克がにやにやしている。
俺はクリアファイルを受け取ることなく手のひらでそっと押し返した。
「ありがとう。でも、とりあえず待ってみようと思うから、気持ちだけ受け取っとく」
真奈のはにかみ顔が、見る見るうちに曇っていった。
なんともまあ、わかりやすいことったら。
「そ。わかった」
本当はその百倍ぐらい物申したいという口調だった。
「なんなら俺が撮ろうか?」
克が真奈の手からクリアファイルをひょいと持ち上げる。
「ちょっと、返しなさいよ、馬鹿っ!」
真奈はクリアファイルを激しく奪い返し、克の頭を叩いて去っていった。
「馬鹿? ……拓郎、俺って馬鹿?」
克がしょんぼりしながらたずねてくる。
「まあ、馬鹿だよな」
俺が真奈に叩かれたところを撫で撫でしてやると、
「男に撫でられてもなあ」
と不満そうに言うからもう一度叩いてやった。