
そんな疑惑の中、打ち合わせは始まった。
打ち合わせといっても、アイデア大喜利みたいなもんで、花音のアイデアに俺が感心するということの繰り返しだった。
花音は体の中にアイデアの泉でもあるんじゃないかと思うほど、次々にアイデアが溢れ出てきた。
たまに突然黙ってはノートに何やら落書きをし、俺が覗き見ようとしたら、
「ダメです」
と笑って、胸元に抱え込んで隠した。
なんだ、このカップルのような至福の時間は……。
やがて灰皿の吸殻は溜まっていき、空のビール缶が何個も床に転がった。
花音はしゃべり疲れたのか酔っ払ったのか、座布団を枕にしてスースーと眠っている。
ファミレスの警戒心全開の姿からは想像もできないほどの無防備な姿。
俺はゆっくりと花音に近づいた。

長い髪が床に放射状に広がっている。
俺は花音の茶色い髪を指で撫でた。
髪の毛は神経が通ってないから、これぐらいはいいだろう。
しかし、髪に触れた指は欲望のままにスススと胸元を目指そうとした。
その瞬間、花音は小さく寝返りを打ち、横向きになった。
チュニックの左袖がまくれ、二の腕の王子さまが現れた。
のっぺらぼうの王子さまは妙な迫力があり、暴走していた指は止まった。
さらにファミレスでの真奈の声が頭に響いた。
『スタッフとごたごたとかやめてよね』
貴重なスタッフの大事な忠告。
俺はため息をつき、ペンを手にとり花音の王子さまに落書きをした。
ベッドから掛け布団をひきずり下ろし、花音に掛けてあげた。
なんか、とてつもなくもったいないことをしてしまっている気がする。
俺はベッドに飛び込み、自分を戒める呪文のように、
「ごたごたごたごた……」
と呟いた。
花音が寝返りを打ち、こっちを向いた。
寝ている花音の腕には、鼻ちょうちんとZZZが描き込まれた王子さまが眠っていた。