
「私に?」
「うん」
空き教室に花音を連れ込み、ドアを閉めた。
換気のためか窓が開いていて、机の上に置いた花音の黄色いノートが風に吹かれてパラパラと捲れた。
花音はノートを閉じ、柔らかそうな胸に抱きかかえた。
「なんで?」
「なんでって……」
小悪魔女子は基本的に会話が疑問系だ。
俺は指先でこめかみを掻いたあと、その指で花音の胸元にあるノートを指差した。
「それ、興味あるから」
すると花音は口角を上げて微笑みながら、
「これ?」
とノートを指差したかと思うと、黄色い表紙の上から白い胸元までそのまま指を滑らし、
「これ?」
と首を傾げながら挑発的にたずねてきた。
俺は全身に血が駆け巡りあらゆるところが熱くなってくるのを感じた。
変な汗をかき始めている。
鈴原花音は、やばい。
噂とはある種違った意味でそう思った。
「……両方?」
俺は正直に答えた。
断定できるのだけど、あえて疑問系で返してみた。
俺の困り果てた顔を見て、花音はくすっと笑った。
花音は鞄のポケットに刺さっていたペンを取り出すと、左腕の袖をまくり、のっぺらぼうの王子さまににっこり顔を描き入れた。
俺は王子さまの笑顔を見てほっとした。
翻弄された全身が緊張から解き放たれ、どっと汗が溢れ出てきた。
そんな俺を見て花音は星が輝くみたいにキラキラと笑った。
花音は鞄の内ポケットからタオルハンカチを取り出し、笑いすぎで潤んだ目元を軽く押さえたあと、そのまま俺の額の汗を拭いてくれた。
タオルハンカチからはバニラ系の香水の甘い匂いがして、余計に汗をかいてしまいそうだった。
花音はポンポンと汗をおさえてくれたあと、
「でも、他の子が嫌がると思うよ。特に女子」
と言って俺の顔からハンカチを離した。
ハンカチで塞がれていた視界が開けたときには花音はもう笑っていなかった。
耳元に花のコサージュを咲かせた花音はなんともデリケートで育てにくい植物のようだった。
「……それは、俺が何とかする」
そうは言ってみたものの、全然自信がない。
花音一人にこんなに振り回されてしまっている俺が、花音を含めたスタッフみんなをまとめることができるのだろうか。
この綺麗な花は、周りと共生するということを知らないわがままな花だ。
警戒心がいっぱいで、心を許せる相手以外にはトゲをむき出す気難しい花。
そんな怖い花だからこそ、恐ろしいほど美しいんだろうけど。
