
「君、名古屋なの?」
奥のソファに座っていた茶髪に黒縁眼鏡、細いネクタイを締めた男が立ち上がる。
「英(はなぶさ)悟(さとる)さん」
晃さんがカウンターから身を乗り出して紹介してくれる。
俺は形式的に会釈し、視線を下ろした。
テーブルの上に置いてあるのはジンライムとオリンパスの最新カメラ。
アートフィルターやマルチアスペクト機能も付いた高性能。
そのカメラがあれば、ガキでもこれくらい撮れる。
俺はまた心の中で毒づいた。
英ってやつはうさんくさい作り笑顔で俺に手を差し出してきたから、こいつは俺の苦手なタイプだなと思いながら、もう一度頭を下げて握手をした。
「俺も名古屋なんだよ。歳、いくつ?」
のっけから馴れ馴れしい。
「二十二です」
「三つ下か、近いなあ。どこかで会ってたかもね。どの辺りいた? ループスとか俺よ
く行ってたんだけど」
懐かしいクラブの名前はあまり心地いい響きがしなかった。
「たまに行ってましたね。僕、テクノとか好きなんで」
「へえ、回したりしてたの?」
「まあ……たまに。お遊び程度に」
しつこいよ。
俺が苦笑いで答えると、背後から晃さんの呟く声がした。
「お遊びが多いなあ」
俺は返す言葉もなく、苦笑いで後ろを振り返った。
晃さんはしれっとした顔でテキパキと開店の準備を進めている。
俺も早く手伝いたいのに英が空気を読まずに話しかけてくる。
「今は何してんの?」
「今は……」
本当にこの男は空気が読めない。
