
授業開始ギリギリに教室に入ると、ほとんどの生徒が着席していた。
専門学校なんて自分のやりたいことしかやりたくない連中の集まりだから授業によって出席率にムラがでてくる。
演出実習や脚本は出席率が高いけど、技術系の講義は欠席が目立つ。
その中でも断とつ欠席率が高かったのが花音だ。
平気で遅刻するし、授業が終わればさっさと帰る。
授業開始に間に合ったかと思えば先生の鋭い視線も無視してずっと寝ている。
たまに起きていてもけだるそうに体を傾けて窓の外なんかを見たりしている。
重力に逆らって体を起しているのも面倒くさい、というようなその姿を見ていると、バイトでどれだけ体を酷使しているのだろうというよこしまな妄想が駆り立てられてしまう。
ガキっぽいから口に出して言わないだけで、俺も花音に興味津々だったわけだ。
しかし仲良くなる前に噂が先行してしまい、無意識のうちに距離をとってしまっていたのか、同じクラスだというのにろくに口をきいたこともない。
目が合っても会釈どころか目が合ってない不利をして反らしてしまう。
興味本位でじろじろと見ているうちの一人だと思われたくなくて。
チャイムの音と同時に、教室の前のドアからは先生が入ってきて、後ろのドアからは花音が入ってきた。
クラスメイトは振り返って花音を一瞥してはまた前を向いた。
「お、デリヘル嬢。ご出勤」
隣に座っている克がわざわざ俺の耳元で囁く。
克は遠慮を知らないから、チラ見どころかガン見だ。
「鈴原って、脚本の授業だけ出るよな」
「そうだっけ」
俺は適当に答える。
噂が浸透してからは、こんなやりとりは日常茶飯事。
いい加減慣れる。
しかし克はまだ飽きないみたいで好奇心いっぱいの顔で口元を緩める。
「今まで親父とやってたのかな?」
女子は肩を寄せ合い、眉をひそめてひそひそ話。
男子は克と同じで好奇心を隠しきれず、どうも落ち着かない様子。
しかし当の花音は自分が黙っていてもクラスを騒がせてしまう存在であることなんて
どうでもいいようで、飄々とした顔で黄色いノートを開き授業を受けていた。