
#19「Leave」-3
昼食の後、座席の前の小型テレビで映画を観た。
ハリウッドの最新ラブコメディはバレンタインの話だった。字幕がなく、英語で聞いていても大体のニュアンスしか分からない。これでよくアメリカ人と付き合えたものだと、感心する。
私はAdamの言っていることを全部理解しているわけじゃなかった。その場の空気や温度で感じていたと言った方が正しい。Adamは私が黙っていると、優しい英語に言い換えてくれた。
ふと恋人を作るのは可能でも、友達を作るのは難しいのかもしれないと思った。
考えてみればネイティブの女友達は出来なかったし。
恋人なら空気や温度でごまかせるし、極端な話、”I really like you.”と言えれば、ごまかしがきくのだ。でも友達とはそうはいかない。会話が弾まなければ、お互いの言っていることを理解しなければ、関係を築くことが出来ない。
そう考えると、私とAdamはごまかしだらけの嘘だらけの関係だったのかもしれない。私たちが一緒にいた期間は短かったが、付合いが長くなると、会話も弾まない、お互いを理解出来ないというフラストレーションに苛まれたのかもしれない。
まぁ、そんなことに思いを巡らせても、私たちは終わったんだから、いまさら意味がないんだけど。
浅い眠りを繰り返した。
意識が遠のいて、徐々に近くなり、また遠のいて、また近くなる。
小型テレビで飛行経路を見ると、成田まであと六時間だった。通路のライトは消されており、外の明りが洩れないように、全ての座席の窓の仕切りが下げられていた。
私は前の座席の下に押し込んだ鞄から、手帳を取り出した。
紅葉が綺麗な十月にNYに降り立った。恋を忘れるために訪れた街で、まさか恋に落ちるなんて思ってもいなかった。
雪がちらつく十一月には寒さを堪えながら街を歩いた。友達が出来た。ひとりじゃないNYは刺激的な街だった。
クリスマスの雰囲気に包まれた十二月には、Adamとデートを重ねた。奇跡だった。私の英語力も上達した。まるで夢を見ているようだった。
私は手帳に書かれた英語を見て驚いた。“I want to spend the rest of my life with you. Will you marry me sometime?”
そうだった。私はAdamに逆プロポーズをしたのだ。
いま考えてみると、よくそんなことを言えたものだと、呆れてしまう。だって帰国するのを分かっていてプロポーズなんて、卑怯ともいえる。
でもあの時、私は素直に思ったのだ。この人とずっと一緒にいたいと。そしたら自然と口から言葉が溢れていたのだ。
例え私たちがごまかしのきく関係だったとしても、あの時の言葉は本当だ。
“It’s possible.”そうAdamは言った。
それはきっとAdamがその時そう素直に思ったからで、きっと本当のことだったのだ。
ふたりがお互いを想っていたのは本当だったと信じたい。
