
#19「Leave」-1
小刻みな振動が体に響く。
窓には水滴が流れている。滑走路に出来た水たまりは、まるで誰かの涙のたまり場のようだ。やがて窓の外の灰色の景色が動き始めた。私は窓の仕切りをバタンと下げた。

一月九日。11:35 AM。
NYは昨夜から土砂降りの雨にみまわれた。夜になっても気温が冷え込まず、冷たい雨が雪に変わることはなかった。雪の方がいくらかマシなのに。
今朝には小雨になっていたけれど、鉛色の重い雲を見た時、思わず飛行機が飛ばないのではないかと思った。いや、飛ばなければいいのに、と思った。
Adamとはカウントダウン以来、会っていない。
あの日、新年を祝う花火が終わった後、私は聖子の家に帰った。数時間前までは自分の場所だったAdamの家は、もはや帰る場所ではなくなっていた。
翌日、聖子がAdamの部屋へ行き、私の荷物を運んできた。帰るまでの八日間を私は聖子と聖子の彼氏と共に過ごした。
もはやNYには何もない。Adamは私の元を去ったのだし、私を待っている人や、私が待つべき人は誰もいない。
なのに、まだ帰りたくないと思っている自分がいる。
未練や後悔とは違う気がする。
どうして私はこんなにもNYに拘るんだろう……。
激しい揺れが数十分も続き、やがて気流が落ち着いた頃、シートベルトサインが消え、昼食のサービスがあった。日本人の客室乗務員だった。
日本語で肉の種類を質問され、日本語で答えた。
顔を見ただけで私が日本人であると判断した客室乗務員に、少し腹がたった。英語を話したかった。まだ成田に着いていないのに、自分が日本人であることを実感したくなんかなかった。
客室乗務員はそんな私の気など知る由もなく、無表情にテーブルに食事を置いた。