
#17「Local」-1
「本当にお世話になりました」
私は遠いところにお嫁に行く娘のように正座をして頭を下げた。右隣にはスーツケースとぱんぱんに膨れたボストンバック。今日、私は予定より二週間近く早く絵津子さんのアパートを退室する。
絵津子さんが複雑な表情をしている。「まさかこんなことになるなんてね」
昭吾くんの顔には期待があふれている。「でも良かったじゃないですか」
私はこれからAdamの家へ引っ越す。
一月九日、NYを発つその日まで、Adamと一緒に暮らすことになったのだ。

同棲なんて初めてだ。
同棲なんて甘い言葉より「居候」の方がしっくりくるけれど、それでもスタジオタイプの部屋の至るところに、小さな幸せを見つけることが出来る。
洋服ダンスの中。Adamの服の隣に掛けられた自分の服。
洗面台の上。寄り添うように並ぶ二本の歯ブラシ。
殺風景なキッチン。何気なく置かれたお揃いのマグカップ。
ご飯を作って、一緒に食べて、晴れていればコインランドリーに行って、スーパーで買い物をして、疲れたら早めに寝る。
こんな普通のことに「幸せ」が隠れているなんて思ってもみなかった。