千葉美鈴 ニューヨークエルストーリー

#16「Lily」-1

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そこは暗闇だった。けれどぬくもりがあった。
まるで温かい海に浮かんでいるような感覚だった。穏やかな波に全身が包まれ、私はただ力を抜いて漂っている。はっきりしない意識の中で、ゆっくりと手を伸ばすと、誰かに触れた。
うっすらと目を開けて確かめた。Adamだった。
“Hi.”とAdamも瞼をひらく。 “Hi.”と私も応えた。
Adamは私の腰に手を回した。“I’m sleepy.”と呟きながら。
それから私たちは太陽が昇るのを拒むように、毛布を頭までかぶった。とたんにまた暗闇が広がる。毛布の中はふたりだけの世界だ。誰も邪魔出来ない。私たちはまた訪れる波に身を任せ、温かい波間を漂い続けた。

喉がカラカラで目を覚ました。既に二時を過ぎていた。お腹もすいているはずだ。
Adamが水のペットボトルとオレンジジュースの紙パックを冷蔵庫から取り出す。両方とも2ℓはある。ベッドに座って、ごくごくと音がなるほど勢いよく飲んだ。それからチョコレートベーグルを半分こする。
“What are you going to do this night?”
“I have no plan.”
“Do you want to come to the church with me?”
“Church?”
“Yeah, we have Christmas service tonight.”
“Are you Christian?”
“I used to be Christian.”
そんな話は初耳だった。
Adamのお母さんは敬虔なクリスチャンで、子供のころは日曜日の度に教会へ通っていたらしい。けれど高校生になったころから次第に足が遠のき、お母さんがとても悲しんだので、クリスマスだけは教会のサービスを受けることにしているという。
Adamは嬉しそうに家族のことを話した。
姉は結婚して西海岸に住んでいること。生まれたばかりの子供が天使のように可愛いこと。弟はまだ中学生で最近同級生の彼女が出来たこと。
何だか嬉しかった。Adamのことがたくさん知れて。
“Would you like to come with me?”
“Sure. I’ll be there with you.”

#16「Lily」-2へつづく

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千葉美鈴 新連載エッセイ
「不滅の千葉ちゃん29歳」

『New York L Story』概要

#01「Left」

#02「Live」

#03「Lesson」

#04「Leaf」

#05「Lost」

#06「Lie」

#07「Listen」

#08「Library」

#09「Luxury」

#10「Lack」

#11「Lonely」

#12「Letter」

#13「Like」

#14「Let me know」

#15「Love」

#16「Lily」

#17「Local」

#18「Life is …」

#19「Leave」

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