千葉美鈴 ニューヨークエルストーリー

#11「Lonely」-1

窓の外はチラチラと雪が降っているのに、部屋の中は常夏のように暑い。
調節の利かない暖房のせいだけじゃなく、リビングに定員以上の人がいるからに違いない。
今夜は仁志さんのサヨナラパーティ。
三か月のビザなし滞在を終え、明後日に帰国するのだ。
仁志さんの友達はもちろん、仁志さんを知らない絵津子さんの知人や昭吾くんのクラスメイトまで集まった。
十畳ほどのリビングに15人ほどの人々。座る場所がない人がキッチンにまで押し寄せてきている。
私は絵津子さんが韓国人スーパーで仕入れてきた、長ネギや春菊やキノコを次々と切っていく。
リビングから英語と日本語、韓国語が混じった音が聞こえてくる。
Adamとのデートから一週間が経った。あれから一度も連絡がない。私も連絡をしていない。
やっぱり、無理なのかな、と思う。やっぱり、私たちは違いすぎるのかもしれない。
AdamにはAdamの人生がある。
NYで生まれ育って、これからもNYで生きて行く彼の人生の中に、私が入り込むのは不可能なのかもしれない。
階下でドアが開く「ドン」という音が聞こえた。続いて階段を上って来る「パタパタパタ」という音。
仁志さんが帰って来たらしい。
リビングのドアを開けた仁志さんは、集まった大勢の人達を見て、驚いていた。
でももっと驚いたのはリビングにいた人達の方だ。
仁志さんの後ろには可愛らしいブラジリアン風の女性が立っており、ふたりの手はしっかりと握られていた。

韓国風チゲ鍋と豆乳チキン鍋は大好評だった。
日本人は「懐かしい」と遠い目をし、アメリカ人は”Great!!!”を連発し、韓国人は”It’s not true.”とチゲ鍋には手をつけなかったが、豆乳チキン鍋が物珍しかったようであっという間になくなってしまった。
チゲ鍋にコチジャンを足そうとする韓国人を昭吾くんが全力で止めるのも可笑しかった。
仁志さんはブラジリアンの彼女――Anaとぴったり寄り添い、仲のよさを見せつけた。
私はふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「仁志さんって、そんなに英語話せたっけ?」
「全然だよ。この前も地下鉄で足踏まれて、Sorryって謝ってきた人に、咄嗟にThank youって言っちゃったからね。Okって言いたかったのに」
日本人が一斉に笑う。ぽかんとしているアメリカ人と韓国人とAnaに、絵津子さんが英語で説明する。
少し間があって、意味を理解した彼らが笑い声をたてた。
“So how do you communicate with Ana?”
私はみんなが理解出来るように英語を使った。
仁志さんはポケットから電子辞書を出した。
「俺はこれ持っているし、Anaはポケット辞書持っているし。Ana日本語勉強してるから、それほど困ることないけどな」
何でもAnaはコロンビア大学へ通っており、来年の秋には東京へ留学するらしい。
仁志さんがよく行くLower Manhattanのデリでアルバイトをしており、顔みしりになったのだ。
ふたりを近づけたのは写真。
仁志さんは自分の撮った何千もの写真をAnaに見せ、それからAnaの写真を撮りたいとお願いしたらしい。 
“Hitoshi’s pictures are awesome.”
私は仁志さんの太ももに手を置くAnaを見ながら考えた。
いまこうしてNYにいるふたりが、来年の今頃には渋谷とか新宿あたりを歩いているのだろうか。
Adamは東京に行ったりしないのかな。Adamと東京でデートするならどこだろう?
桜の時期だったらお花見をして、紅葉の時期だったら登山もいいかも。

ふたり

#11「Lonely」-2へつづく

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千葉美鈴 新連載エッセイ
「不滅の千葉ちゃん29歳」

『New York L Story』概要

#01「Left」

#02「Live」

#03「Lesson」

#04「Leaf」

#05「Lost」

#06「Lie」

#07「Listen」

#08「Library」

#09「Luxury」

#10「Lack」

#11「Lonely」

#12「Letter」

#13「Like」

#14「Let me know」

#15「Love」

#16「Lily」

#17「Local」

#18「Life is …」

#19「Leave」

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