
#09「Luxury」-1

街全体が大きな宝石箱になったように煌びやかに輝いている。
ニューヨークの12月は、日本の師走とは比べものにならないほど賑やかだ。
ケーキ屋さんやおもちゃ屋さんの店内のようにカラフルで、歩いているだけでウキウキする。
冷たい空気が頬を刺して、口から漏れる息は白いけれど、そんな凛とした中に赤やオレンジのデコレーションが浮かんでいるから、気分は不思議と暖かくなるのだ。
「これがあのクリスマスツリーか」
感慨深げに呟いた私に、「テレビで見る方が綺麗じゃない?」と聖子がつぶやく。
そう言われれば、確かにそうかも。
日本のテレビで見るロックフェラーセンターのクリスマスツリーは、自分の手の届かない遠い世界の物語だから、ただただ圧巻されて、ただただ憧れの対象だった。
けれどそれが現実になった時、その迫力を失う。
パーフェクトな姿しか映さないテレビと違って、自分の目で直に見ると、パーフェクトじゃないところも見えてくる。
それでも……
「でも私はテレビより本物の方が好きだな」
「えー私はテレビの方が好き。暖かい部屋でみかん食べながら眺めていたい」
「若者らしからぬ発言!」
しっかり者でクールだと思っていた聖子は、意外に年寄りじみたこと言うことがある。
それに結構面倒くさがり屋だったりもする。まだ23歳なのに。
聖子の携帯が鳴った。彼氏のユウヤ君かららしい。
私は改めてクリスマスツリーを眺める。
ツリーの下では写真撮影会が行われている。
世間は浮足立っている。私も浮足立っている。
ニューヨークに、クリスマスに、それからAdamに。
あの日、市立図書館でメールアドレスを貰ってから、私達は何度かメールのやり取りをした。
Adam Donat 28歳で私と同い年。ニューヨーク大学の大学院生。
教育学を学んでいる。LラインのBedford Avenueで一人暮らし中。
いまのところAdamについて知っているのはそれだけ。
それだけなのに、私の心はふわふわと宙を浮いている。
すごい好きかもしれない。
ひとりで盛り上がっていて、まるで中学生の恋みたい。
「百合ニヤついてるよ」と電話を終えた聖子が同じくニヤニヤして近づいてくる。
「あ、ごめん。緩みっぱなしで」
「そりゃぁ、デートだもんねぇ」
聖子が「デート」を強調して言った。
そう、私は明日Adamとデートするのだ。
デートと言っても、ただ会ってお話しするだけなんだけど。
それでも、好きな人とクリスマスに彩るニューヨークを歩けるなんてこの上ない贅沢だ。
幸福と緊張と期待で胸が弾けそう。