
#07「Listen」-1
あの日から、シンウォンは驚くほど大人しくなった。
たまにばったり会っても、遠慮がちな笑顔で”Hi, Yuri.”としか言わない。
アメリカ人のボーイフレンドがいることが、よほどショックだったようだ。
私は自分を守るためとはいえ、簡単に嘘がつけたことに驚いている。
しかもAdamなんて言ったりして。
そのことはシンウォンから他の韓国人友達へ、他の韓国人友達からジ―ス―へ、
ジ―ス―から聖子へと伝わった。
聖子がニヤケ顔で近づいてきて、「聞いたよ、ボーイフレンドいるらしいじゃん」と言われた時には閉口した。
前々から思っていたけれど、韓国人のコミュニティはすごい。
海外で日本人に会っても、大抵の日本人は関わらないように冷たい(もしくは見えていないような)態度をするけれど、韓国人は違う。
異国で会った仲間と情報交換をする。
「会えてありがとう」とでも言わんばかりに連絡先を交換したりする。
でも良く考えてみればそれが普通な気もする。
なんなんだろう、あの日本人の敵対心は。
「で、そのボーイフレンドのアダム君とはどこで知り合ったの?」聖子が嬉しそうに聞いてくる。
私は言い訳するために、聖子を飲みに誘った。
最初はアパートで飲もうと思っていたけど、今日がたまたま金曜日だったから、ブルックリンビアファクトリーに行くことにした。
金曜の夜か土曜の昼しか空いていないビア工場は、聖子が前々から行きたかった場所らしい。
地下鉄L LineのBedford Avで降りる。
あたりには、小さいけれどこだわりを持ったカフェや、おしゃれなセレクトショップなどが立ち並ぶ。
アスファルトの道路や白い壁にアートがあり、芸術家の街だと分かった。
道を歩いている人も若くておしゃれなだ。
ブルックリンビアファクトリーは大きな古着屋の目の前にあった。
石造りの建物から、騒がしい声が聞こえてくる。
入口でIDを見せ、無事入場を果たした。
日本では一回くらいしかビアホールに行ったことがないから、この工場が大きいのか小さいのか分からないけれど、細長いテーブルが20くらい置かれており、場内は満員だ。
レジで丸いトークンみたいなのを買って、カウンターで注文をする。
カウンターに向って長い行列が出来ている。ニューヨークに来て行列を見たのは初めてだ。
カウンターにたどり着くまで15分くらいかかっただろうか。
全然ビールに詳しくないから、”I’d like to right beer, please.”と言ってみた。
カウンターの金髪のお兄さんは「まいど」と外国のイントネーションで言った。
