
#01「Left」-1

眼下にぽつりぽつりと灯りが見え始めた。
家の窓から漏れる灯りは、紛れもなくそこに誰かが生活している、存在しているという証だ。それが今の自分にはまるで想像が出来ない。自分とはかけ離れた世界に思える。
少し赤毛の混じったブロンドの客室乗務員が、早口で英語を言いながら歩いてくる。何を言っているかは全く理解出来ないけれど、どうやらテーブルとイスを戻すように言っているらしい。ジェスチャーで何とか理解出来た。
目の前にあるテレビモニターの航路から、私の乗った飛行機がもうまもなくジョンFケネディ空港へ到着するのが分かる。
――長かった。
十三時間の空の旅もだけれど、それより、ニューヨークに行くと決めてから、ここまでやって来るのが思いのほか大変だった。
留学の手続きに始まって、航空券とアパートの手配、アメリカでも取引が出来る口座の開設、携帯電話の解約。それから必要な物を揃えて、持っていくものを厳選する。
何より一番大変だったのは、父親の説得。父親があれほど反対するとは思わなかった。三十を二年だけ手前にする娘に、まるで高校生の娘が学校をやめて放浪の旅に出る、と言いだしたかのような慌てぶりだった。心配性なのは昔から。頑固で自分の意見を通そうとするのも昔から。
そんな父親の血をひいている私が不安を感じなかった訳がない。不安で不安で、やっぱり留学なんて辞めようかと何度も思った。
でも決めたのだ。最終的には行くって決めたのだ。だから私は一歩も譲らなかった。頑固で自分の意見を通そうとする父親に倣って。結局、納得なんてしてくれなかったけど、最後まで不機嫌な顔をしていたけれど、それでも私はニューヨークに行くことを通した。成田まで送ってくれた母親が「あんたの好きにしなさい」って言ってくれたのが、今の私の支えになっている。