第3回 「樽は見ている」

樽は見ている。

パクチーハウス東京は“交流する飲食店”というコンセプトで、オープン5日
前にかながわビジネスオーディションの日本起業家協会賞を頂いた。

賞をいただいたということは評価されたのだと思うが、講評の中に「あなたの
言ってることが起これば素晴らしいけど、飲食店という空間でどこまでそれが
実現できるか頑張ってください」という旨のことを言われたのをよく覚えている。

どこまで「交流」を促すべきか、最初のうちは迷いがあった。相席にものすご
い抵抗を示す人もいて、くじけそうになった。しかし、一人ひとりに自分の考え
を直接話すことで、共感してくれるひとが多いことを知った。そして、少しずつ、
パクチーハウスでは不思議な出会いと再会が増えてきた。

最近起こった出来事から。

ランチで地球を救うカレーライスを手食している方が、突然大きな声をあげて
立ちあがった。2つ横のテーブルの人と「どうして」「驚いた」「久しぶり」と
いいあっている。

その方たちは会社の元同僚ということだった。10年近く連絡もとっておらず、
一方はしばらく東京を離れていたのだが、たまたまパクチーハウスに来て、再会
することになった。

同じ夜。数週間に一度来パクしているグループの一人が興奮した面持ちで語っ
ていた。「大学のゼミメンバーがなんでここにいるの!!」。

テレビ取材の撮影中に不思議なことが起こったこともある。タレントのTさん
が、撮影中に突然台本を外れて騒ぎ始めた。「あれ? Nさんじゃないですか!
どうしてここで食事しているんですか? あ、僕、以前共演したTです!!」。

さまざまな出会いを、より起こりやすくするため仕掛けとしての樽。しかし、
樽がその役割を与えられてからというもの、出会いだけでなく、不思議な再会も
増えてきている。

樽はそれを見ている。樽がそれを仕掛けている…としか思えない。

[Kyo_do tsushin] No.6 2010年6月1日発行分より

■佐谷恭 kyo paxi
佐谷恭

京都大学総合人間学部在学中の19歳のときに旅を始める(現在までの訪問国数約50カ国)。2004年、「旅と平和」をテーマにした論文で、英国ブラッドフォード大学大学院(平和学専攻)を修了。

職歴は、富士通(株)で関西の新卒採用の責任者、(株)リサイクルワンの創業期のセールスマネージャー、(株)ライブドア報道部門の立ち上げ時のリーダー。

 2007年8月9日、株式会社旅と平和 を創立。同年11月に交流する飲食店をコンセプトに東京・経堂に世界初のパクチー専門店「パクチーハウス東京」をオープンさせる。2009年4月からは、樽を囲む立ち飲みスタイルの店舗内店舗「Public'S'peace」(パブリック・ス・ピース)もスタート。
現在、新しい“交流する飲食店”(用賀)と社会起業家を対象とした仕事空間提供サービス“PieceOfPeaceシェアオフィス”を準備中。

日本手食協会理事長、日本パクチー狂会会長。
著書に「ぱくぱく!パクチー」(情報センター出版局)。